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息子がこの世に産まれてくれました。生まれた直後、ある事に気がつきました。

目薬のようなものを一滴だけ目に注がれ、元気よく鳴いていましたが、涙が出ていないのです。

また、新生児でまだ笑うはずのない息子は一瞬、

微笑むような表情を見せてくれました。 

そうしたことにまだ医学的根拠はないそうです。

 

人間は産まれた瞬間から、絶対に避けられない死に向かっています。

でもそれは決して暗いことではありません。

教えてもいないのに乳を欲しがることも体を動かす動作や、

泣き声すらも命のもっとも原始的な行為のように思います。

その生きようとする力強さ、神秘性を僕はうつくしいと感じて作品にしようと思いました。

第7回エモンアワード・グランプリ受賞者展によせて

 

内倉真一郎。1981年宮崎県延岡市の写真館を営む長男として生まれ、幼少時代から写真に囲まれて育つ。日本写真映像専門学校を経て独立し、実家の後継ぎとして活動拠点を宮崎に移し現在に至る。

写真を生業としながら内倉は、これまで培ってきた技術を武器にして数多くプライベートワークに取り組み、内外のコンテストで佳作・入賞を繰り返してきた。今回の受賞作品には、そうした積み重ねによる作品の強度もさることながら、その根底に作家の挑戦と覚悟の痕跡を見ることができる。作品タイトルはこの受賞を機に、11月に授かった命を星になぞらえて「十一月の星」と改められた。また展覧会開催までの5ヶ月の間にエキシビションプランは度々見直され、あらたに作品を撮り下ろすなどして、最終的にはレイヤーを重ねるような重層的空間づくりとなっていった。新生児とタンポポ、その直接的ではないむしろ遠い二つのイメージを織り交ぜ、ただ飾るだけのありふれた写真展にならないようにしたのは内倉のアイデアである。

 

出産にまつわる写真は決して珍しくはないが、その多くと内倉の写真を分け隔つのは「運命」に対する眼差しにある。撮る対象が血を分けた実子であろうと、その眼は鋭く「生」そのものに向けられている。作品の主題は、彼のステートメントにあるように『人は生まれた瞬間から死に向かっている』という現実を見据え、我が子への愛おしさ、その先にある生物すべてに共通するテーマを抱えている。それは、私たちが大人へと成長し、知恵を付けていくことによって失いがちなこと、その「ただ、生き抜く」という人が本来もっているサバイバル本能を呼び覚ますかのようである。さらけ出すことを躊躇わず、粘り強くチャンスを待った内倉は、ここに来てとうとう代表作と呼ぶに相応しい作品を生み落とすことが出来ただろう。この作品でただひとつ明白なのは、私たちに慎みの念を抱かせるほど紛れもない命がここに在るということ、そして命の営みは、この地球を覆っている矛盾だらけの厳しい自然の営みとなんら変わらない事にも気づかせる。それがこの作品「十一月の星」に注がれた、容赦なくもあたたかい内倉真一郎の眼差しなのである。

 

エモン・フォトギャラリー ディレクター小松整司

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